2025年08月19日
筒井康隆 新作「敵」 (趣味~小説)
筒井康隆先生の新作、「敵」読了。
筒井康隆、老年期の老年文学の傑作だ。
今年、初めに映画にもなった「敵」は、「敵」というタイトルは小説の中身とは何も関係ない。
主人公は、元フランス演劇・文学の教授で、引退して10年近くの歳月が経っている。
妻も亡くなって久しい。
老人の毎日は、過去の記憶を錯綜することにある。
スーパーに買い物に行き、美味しい食事を作ろうにも、スーパーで売っている食材は、老人の1人分の食材としては、多すぎるので、どうやって小分けしながら、食べていくか?
どんなお酒にこだわり、どんな映画(TVであったり、ビデオであったり)を見ながら、食べるか?
そんな日常を細かく、丁寧に描写する。
思わず、そうだよなぁ、と頷いてしまう。
主人公には、妻の他に、2人ほど、気になっていた女性がいた。
いずれも関係は、出来なかった(教授のプライドの高さが要因か?)が、今となっては常に妄想の対象となる。
毎日の1人暮らしの中で、妄想と、現実を行き来し、お見合いで出会い「愛しているよ」との言葉を、生涯、言うことが出来なかった妻のことを
生涯の伴走者として、愛していることに気付き、妄想を深めていく。
虚無感を以って終わるが、死に向かう、老人は常に孤独と対峙しながら、プライドを維持してい生きていかねばならない。
筒井康隆先生、やはり、天才です。
僕の筒井康隆は、エスパー七瀬シリーズ(「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」が、始まりだ。
「時をかける少女」などのジュブナイル文学も手掛け、「富豪刑事」「パプリカ」のような設定上手な小説群も多い。
ショートショートや、「日本以外全部沈没」などスラプスティックコメディを経て、文学=虚構という図式の中で「虚構船団」「虚ろい人たち」にいったん行きつく。
実験小説として、「残像に口紅を」は秀逸だ。あいうえおかきくけこ・・・の文字がひとつづつ、世界から消えていく、という設定で、最後に残る文字は?
という小説だが、異様に面白い。
僕の中での筒井先生の最高傑作は、「旅のラゴス」だ。
いつの時代か?世界を旅するラゴスの話だ。
筒井先生が追い続けたのは、読者の伴奏から少し外れた意外性だ。
小説・漫画・映画などあらゆるフィクションは、読者(視聴者)の共感が必要となる。
共感は、読者が伴奏して、「そうだ、そのとおりだ、それは悪だ、それは正義だ」と共感を得ることだ。
しかし、共感は、作者が創造したフィクションであり、虚構の世界である。
面白い文学の共通性は、共感を得つつも、読者が、思いもよらなかった世界に連れて行ってくれることである。
そういった意味で、筒井先生は、60年にわたる作家生活の中で、常に意外な現実を僕に提供してくれたスーパークリエイターである。
尊敬。
2025年08月19日 11:30
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