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2021年03月18日
上野歩著 「労働Gメンが来る」 発刊 (趣味~小説)
上野歩先生のお仕事小説最新作「労働Gメンが来る」が光文社から発行された。
「働き方改革」が叫ばれて久しいが、本書は、様々な階級の様々な人の働き方について、改めて、考えさせられる。
大学を卒業して銀行職についた主人公清野清乃(セーノキヨノ)は、土日も働かざるを得なかった銀行の営業職の経験から、公務員である労働基準監督署に再就職をする。
そもそも労働基準監督署とは、どんな公務員なのか?
この小説を読めば、労働基準監督署がわかるだけでなく、働くことの意義まで考えざるをえない。
第一話は、「賃金未払」
高齢者施設とお弁当屋さんの指導に当たる。
お弁当屋さんに勤めていたパートの朱美は、残業代が支払われていないことで、相談に来る。
朱美は、たばこは吸うし、言葉使いが悪く、セーノは、はじめ悪い印象を得る。
しかし、経営者の話を聞き、また、朱美の行動を知ると様々な理由があることを知っていく。
この中で、1分単位の労働時間を図り、そこに1分単位で給与を払わなくてはいけないことを、僕は初めて知った。
第二話は、「労働災害」
現代のセンサーや、両手押しボタンで、指を挟まれる危険は少ないプレス屋で、
なぜ?プレスの労働災害が起きるのか?
製造業を舞台にした労災を取り上げた話である。
どこまでが企業の責任で、どこまでが個人の責任なのか?理解できる物語となっている。
また、本書は、下町墨田区を舞台にしている。一連のNCN提供の製造業お仕事小説シリーズと繋がっている。
第三話は「壁の穴」と題し、前章に引き続き、
運送屋での労災の話だ。
こちらは、労災であることを隠蔽しようとした経営者を告発する話となる。
なぜ?労災隠しが起きるのか、興味深い内容だ。
ここでも主人公は、とっぽい兄ちゃんだが、子供と女房のために少しでも稼がなくては、という視点が素晴らしい。
第四話、「ガサ」
労働基準監督署が警察の権限を以て、ガサ入れに行く。
対象は、発明家経営者で、何カ月も社員の給与を止めている企業である。
しかし、社員からの評判はいい。何があったのか?
ここでは、過去に労災隠しをしたために倒産し、一家で自殺を図った企業の例も出てくる。
会社を潰してまで、労働基準監督署の役割があるのかが、問われるのだ。
第五話「セクハラ」
セクハラに関する話。3名の社長の例からセクハラ問題が語られる。
第六話「働き方の未来」
ここでは、コロナ以降の働き方が考察される。
NCでの在宅勤務移行の話も出てくる。
働くこととは、時間を区切るものなのか?
働くことは、人に時間を提供するものなのか?
経営者の視点、働く人の視点。
両面から、働くこととは、何かを訴える小説である。
小説として面白いだけでなく、働くこと、法律が学べて面白かった。
大きなドラマではなく、どこにでもある通常の物語を、信のある問題として捉えて、ストーリーとする上野歩の筆力が素晴らしい。
お仕事小説の第一人者、上野歩先生の小説家としての幅が一段、広がってきたと思える傑作である。
2021年03月18日 09:42
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